2019年03月14日

蝶の縁起

「蝶」は、世界中に広く分布し、その種類は知られているものだけで約17,600種といわれています。日本では約260種が知られており、日本で最初に発見された「オオムラサキ」は日本の国蝶とされています。
春になると身近に見られる蝶ですが、ギリシャ神話や中国の故事、仏教やキリスト教の教えの中にも登場し、洋の東西を問わず、幼虫からサナギを経て成虫となるその劇的な変化によって、輪廻転生や復活、長寿などの象徴とされてきました。

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■日本における「蝶」の縁起

●仏教では極楽浄土に魂を運んでくれる神聖な生き物
蝶は、サナギから脱皮して美しい翅(はね)をもつ蝶が飛び立つことから、死後、からだから抜け出した魂を極楽浄土に運んでくれるとして神聖視されていました。輪廻転生の象徴でもあるため、仏具にはよく蝶の装飾が使われています。機会があったら、探してみてください。

●武士に好まれた「不死・不滅」の象徴
蝶文が能装束や小袖に意匠されたのは桃山時代からといわれています。その姿の優美さから着物の柄として取り入れられただけでなく、蝶の変化の様子が神秘的で「不死・不滅」のシンボルだったことから、武士に好まれました。
蝶の文様は「平家物語」や「源平盛衰記」などにさかんに出てきます。平清盛からつながる者が多用したので、後に「蝶紋」が平家の代表紋とされました。なかでも有名なのが、平清盛の家紋である「丸に揚羽蝶(あげはちょう)」です。この揚羽蝶は、特にアゲハチョウを図案化したものではなく、羽をあげて休んでいる蝶の姿を描いたものです。
蝶の文様はたいへん好まれたので、他の家でも蝶を家紋にしているところがたくさんあります。

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●不吉とされる場合も
蝶のイメージが死や霊に関連するので、場合によっては不吉とみなされることもあります。
お盆時期の黒い蝶や、夜の蝶を仏の使いとする伝承や、蝶を死霊の化身とみなす地方もあり、蝶が無数に飛び回ったり、仏壇や部屋の中に現われたりすると、死の前兆ととらえる見方もあります。
また、花から花へと次々に飛び回る蝶の姿は、浮気者に例えられたりもします。女性の着物では、婚礼の場や正装には避けたほうが良い文様と考える人もいます。


■海外における「蝶」の縁起

蝶は海外でも、人間の生と死と復活のシンボルとしてとらえられており、死者の魂が宿るとされています。
ギリシャ語で蝶は「psyche(プシュケ)」といいますが、これはギリシャ神話に登場するアモルに愛される美少女の名前が由来です。この名前のもとは「霊魂(プシュケー)」を人格化したもので、魂や不死を意味しています。ギリシャ神話の中で、プシュケは様々な苦難を乗り越えて、ヴィーナスの息子アモルと結婚を認められ、永遠の命を得て女神となります。この物語は彫刻や絵画でもよく取り上げられますが、プシュケはよく、背中に蝶の翅をつけた姿で表されています。


■中国における「蝶」の縁起

中国語の蝶を表す「ディエ」という発音が老年を意味する「耋」という言葉と同じ音なので、長寿につながるともいわれます。
さらに、蝶のイメージは美しく軽やかなので、美しさやめでたさの象徴にもなっており、花を慕う蝶は、愛情あふれる円満な夫婦に例えられています。
また、荘子の「胡蝶の夢」は有名な故事です。
「荘子が蝶になった夢を見たが、覚めた後、自分が夢で蝶になったのか、蝶がいま夢のなかで自分になっているのか疑った」という話で、夢と現実とがはっきりと区別できないこと、転じて、人生のはかないことのたとえとされています。

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