2021年10月01日

ふぐ

「ふぐ」は秋の彼岸から春の彼岸までが旬といわれる魚です。特においしいとされる時期はふぐの種類や産地によって異なりますが、日本の冬の味覚のひとつです。なかなか食べる機会の少ない高級魚ですが、毒があっても何とか工夫して食べたいと、先人が努力したほど日本人を惹きつけるおいしさがあります。

202109_ふぐpixta_58216622_S.jpg

■ユニークな魚「ふぐ」
ふぐは、からだを風船のように膨らませた姿が特徴的です。体を膨張させるのは敵を威嚇するため。おなかの中に膨張嚢(ぼうちょうのう)があり、そこに空気や水を吸い込みからだを膨らませています。
歯はギザギザとして噛む力も強く、養殖のふぐは「歯切り」をしないと傷だらけになってしまうそうです。
そして大きな特徴は毒をもつことです。テトロドトキシンという毒を持つものが多く、美味として知られている「とらふぐ」などもこの毒を持っています。テトロドトキシンは神経毒で、食べるとしびれや麻痺症状が出て呼吸困難になり死に至る危険のある猛毒です。

■ふぐを食べる人々
日本ではふぐは昔から食べられていて、当然毒に当たって亡くなる人も多かったと思われます。そのためか秀吉はふぐを食べることを禁止しましが、その後、江戸時代になってから再び食べられるようになりました。現在は、ふぐを取り扱えるのは都道府県からふぐ調理師免許や取り扱い資格を与えられた人に限られます。
世界でもふぐを食べる文化があるのはアジア圏だけで、日本、韓国、中国、台湾などです。
天然や養殖を含めた漁獲量世界一は中国ですが、日本は第2位(2019年)。日本国内で有数のふぐ取扱量を誇るのは山口県で、南風泊(はえどまり)市場は全国で唯一のふぐ専門の卸売市場です。

■ふぐの呼び名あれこれ
ふぐは、平安時代には「布久(ふく)」や「布久閉(ふくべ)」と呼ばれていました。江戸時代になると、「ふく」「ふぐ」「ふくべ」「ふくへ」「ふくとう」などといろいろな呼ばれ方をしていたようです。やがて関東では「ふぐ」と呼ぶようになりましたが、現在も下関や中国地方の一部では「ふく」と呼ばれています。「ふく」は福に通じて縁起が良いということで「ふく」の名で親しまれています。
「ふぐ」「ふく」の由来は、もともとは「腹をふくらます」「ふくるる」から名前をつけているとする説と、ふぐは海底で砂を吹いて餌をとるため「吹く」からとする説などがあります。
英語では、ぷっと吹くという意味から「puffer」などと呼ばれています。
また、関西では「当たると死んでしまう」ことから「鉄砲」と呼ばれています。

■なぜ「河豚」と書くの?
ふぐを漢字で「河豚」と書きますが、なぜ河の豚?と思いますね。
中国では、揚子江や黄河などの河に生息するフグが親しまれていました。そこで「河」が使われ、膨れた姿が豚に似ていて、また、釣り上げられたときに「ブーブー」と豚の鳴き声に似ている音を発することから、「豚」が使われるようになったといわれます。

202110_ふぐ刺しpixta_37162952_S.jpg

■おいしいふぐ料理あれこれ
ふぐにもいろいろ種類がありますが、最高級とされるのは「とらふぐ」です。ふぐは生でも、煮ても焼いても揚げてもおいしいということで様々な料理があります。ただし、素人が料理することはできません。資格のある料理人の手によるプロの味を楽しみたいですね。

・ふぐ刺し
ふぐの身を透けるほど薄く包丁で引いて、大輪の花のように大皿に盛られたふぐ刺しは美しく目でも楽しめる一品です。ポン酢や紅葉おろしでいただくのが一般的です。
関西ではふぐを「鉄砲」ということから「鉄砲の刺身」で「テッサ」と呼びます。

・ふぐちり鍋
土鍋にだし汁とふぐの切り身や骨、季節の野菜を入れて煮る鍋料理です。魚の切り身が熱い煮汁の中でちりちりと縮んでいくことから「ちり鍋」というそうです。関西では「鉄砲のちり鍋」を略して「てっちり」と呼ぶことが多いようです。
そして、鍋の締めには「ふぐ雑炊」が欠かせません。

この他にもふぐのから揚げや、寿司、白子の料理など憧れの料理がたくさんあります。
最近は通販でふぐ刺しやふぐちりのセットがお取り寄せできるので、利用してみるのもいいかもしれません。

以前ふぐ料理専門店の前を通ったとき、店の前に魚のひれがたくさん貼りついていて、なんだろう思ったことがあります。今思えば、ひれ酒用のふぐのひれを天日干ししていたのですね。ひれの1枚も大切に味わおうとする日本の食文化には、ふぐへの愛情さえ感じます。


ページトップへ