知っていると、素敵な暮らしにちょっと役立つ歳時記情報です。

暮らしの中の歳時記

カテゴリ一覧を見る

2018年04月13日

4月の中旬からゴールデンウィークの頃、藤の花が見ごろを迎えます。
マメ科のつる性落葉樹で、藤棚から長く垂れさがるうす紫色の花房は美しく、風に揺れる花房からは甘い香りが漂います。多くの園芸品種があり、現在では世界各地で植えられていますが、日本で「藤」といえば、通常は「野田藤(ノダフジ)」を指し、樹齢何百年といわれる藤の名所も多くあります。日本の伝統の中にも、藤は様々な形で息づいています。

pixta_22124081_S.jpg


■野田藤と山藤

日本には「野田藤」と「山藤(ヤマフジ)」の2種類が自生しています。藤は、万葉集にも多数詠まれ、古くから親しまれていますが、藤棚などを作り庭木として楽しまれるようになったのは江戸時代になってからだとか。
野田藤は、藤の名所、摂津国野田の藤之宮(大阪市西成区付近)にちなみその名がついたといわれています。代表的な種類には、花房の長さが1mを超す長藤(ナガフジ)、濃い紫色の花を付ける八重黒龍(ヤエコクリュウ)、白色の花を咲かせる白花藤(シロバナフジ)などがあります。野田藤は、花房が長くたくさんの花がつき、つるが右巻きです。
山藤も野田藤とよく似ていますが、花房が短く、つるが左巻きです。


■藤色は高貴な色

藤にはうす紫色や白色、淡紅色、濃紫色などの種類がありますが、やはり代表的なのは、ずばりその名がついた「藤色(ふじいろ)」で、藤の花のような淡い青みのある紫色のことです。平安時代から綿々と女性の着物の色として好まれ、表は淡紫で裏が青、表は紫で裏が薄紫など、襲(かさね)の色目としても愛用されました。派生した色名には、「藤紫」「藤鼠」「大正藤」などがあります。


■藤原氏と藤紋

藤は長寿で繁殖力が強いため、めでたい植物とされ、家紋にも多く使われ、五大紋(藤紋、桐紋、鷹の羽紋、木瓜紋、片喰紋)のひとつとされています。
奈良・平安・鎌倉時代と栄華を極めた藤原氏は、その氏にちなみ、藤花の宴を頻繁に催し、衣服の文様としても藤の意匠を取り入れ、やがて家紋として「藤紋」(丸に下り藤)を用いるようになったといわれています。ただし、藤原氏本流の中での使用は多くなく、室町時代に藤原氏から分かれた武士たちが藤紋を使ったことや、人々が栄華を極めた藤原氏にあやかりたいと藤紋を使用したことなどによって全国に広まっていったと考えられています。
バリエーションも多く、約百五十種もの藤紋があるそうです。


■藤娘

藤は、伝統芸能の中でも美しい演目のひとつとなっています。
江戸時代、近江の国・大津(現在の滋賀県大津市)で描かれた「大津絵」という民俗絵画の画題のひとつが「藤娘」。黒の塗り笠に藤づくしの衣装で、藤の花枝を肩にのせた美しい娘姿が描かれています。大津絵は、東海道を旅する人々の土産物や護符として人気があり、大津絵の画題から取った唄や踊りも生まれました。歌舞伎の藤娘は、大津絵の中から藤娘が現われて舞い踊るという演目ですが、昭和に入って六代目尾上菊五郎が、藤の精が娘姿で舞い踊るという新演出で人気を博し、今日でも人気の演目のひとつとなっています。


pixta_30963781_S.jpg


■藤の名所

●春日大社(奈良県春日野町)
春日大社は、境内随所に古くから藤が自生しており、藤原氏の氏神様でもあることから社紋も「下り藤」とし、藤の花はとても大切にされてきました。特に本殿内にある「砂ずりの藤」は、樹齢700年以上といわれる名木です。また、社苑の萬葉植物園内の「藤の園」には20品種、約200本もの藤の木があり、大変優美な庭園となっています。

●平等院(京都府宇治市)
平等院は、1052年に藤原頼通が開創したもの。境内3か所ある藤棚のうち平等院を代表するのが、樹齢280年ともいわれる阿字池を望む藤です。長いものは1m以上もの花房となり、地面をするほどになることから、古来「砂ずりの藤」といわれています。

●亀戸天神(東京都江東区亀戸)
亀戸天神というと「梅」を思い出しますが、藤も見事です。江戸時代から「亀戸の五尺藤」「亀戸の藤浪」として広く親しまれ、安藤広重の浮世絵にも描かれています。4月下旬頃から、境内に張り巡らされた藤棚の約50株以上ある藤の花が一斉に咲き始め、心字池に映る様も優美です。例年、藤まつり中はライトアップされ、ひときわ美しい藤が楽しめます。

●あしかがフラワーパーク(栃木県足利市)
広大な敷地に四季折々の花が咲き誇る花のテーマパーク。4月中旬から始まる藤のシーズンには、大勢の人で賑わいます。中でも栃木県指定の天然記念物にもなっている樹齢150年の大藤は、1本の木から1000平方メートルの大棚いっぱいに枝を広げ、長さ1mを超す紫色の花房で覆われる姿は圧巻です。

●大久野の藤(東京都西多摩郡日の出町)
高さは30m近く、幹の太さは約3mという山藤の大木が、山中に1本、自然のままの姿で立っています。野生の藤なので、アラカシと杉に巻き付いた姿で花を満開にします。樹齢400年といわれ、東京都の天然記念物に指定されています。

こぼれ落ちる滝のように咲きほこる藤の花の美しさ・・・。機会があればぜひ、鑑賞しに行きたいですね。

ページトップへ