2018年06月03日

紅花

紅花は、その名の通り貴重な紅色の素として、古くから活用されてきました。紅は魔除けの色、高貴な色とされ、その素となる紅花の赤い色素はとても貴重なものでした。その昔、シルクロードを経て日本へ伝来した紅花は千年以上の歴史をもって、今なお日本文化とともに生き続けています。


■紅花とは

pixta_14492772_S紅花.jpg

紅花はアザミによく似たキク科の越年草です。暖かい地方では秋に種をまき、寒冷地では春に種をまきます。紅花の産地として有名な山形県では早春に種をまきます。夏に花を咲かせ、咲き始めは鮮やかな黄色の花ですが、しだいに下の方から紅くなります。花を包んでいる総苞(そうほう)は成長するにつれて鋭いトゲが目立ち、葉にもトゲがありますが、最近では園芸用にトゲのない種類もあります。
染料や顔料として利用されるほか、種からは紅花油(サフラワーオイル)が採れ、葉や茎は食用にもされます。


■紅花の伝来
紅花の原産地は、地中海沿岸や中央アジア、またエジプトナイル川流域など諸説あり、確定されていませんが、古くから栽培され利用されていました。古代エジプトではミイラを包む布を紅花で染め、防虫や防腐に役立てていたそうです。
紅い色は強い生命力や神聖な力が宿っている魔除けの色と考えられていましたが、自然界ではきれいな赤に染まる色素は少なく、紅花は貴重なものでした。やがてシルクロードを通って中国へ、そして朝鮮半島を経て5~6世紀ごろ仏教文化とともに日本に伝わったといわれています。
「古事記」の仁徳朝から推古朝までを書いた下巻に出てくる紅花の記録が最も古い記録で、万葉集にも「末摘花(すえつむはな)」という名で見られます。


■紅花の異名いろいろ
日本では紅花の呼び名がいろいろありますが、色や染め物に関わる名前が多いようです。
・久礼奈為(くれない)、呉藍(くれのあい)
万葉集などに見られる古い和名です。「呉藍」とは、中国の呉から伝わった染料という意味のようです。また「韓(唐)紅(からくれない)」とも呼ばれ、朝鮮半島より渡来した紅、また外国産の紅ということを表しています。
・末摘花(すえつむはな)
同じく万葉集などに見られます。花は茎の末の方から咲き始め、その花びらから順に摘み取るので「末摘花」と呼ばれたといわれます。「源氏物語」では、常陸宮の姫君が鼻の先が赤いことから、「紅花」にかけて「末摘花」と呼ばれています。


■染料、顔料としての紅花
染色用には花びらが使われ、花びらには異なる二つの色素があります。
黄色のサフロールイエロー

水溶性の黄色い色素で紅花に含まれる色素のほとんどがこれです。防虫防腐効果があり、古くから絹や紙を染めるのに使われていました。また、食品の着色にも使われています。

・紅いカルサミン
水溶性の黄色い色素を流して取り去ってから、アルカリ性の溶液で抽出します。麻布などに吸着させてからもう一度弱アルカリ性の液体の中で洗って色素を落とし、そこへ梅酢などの酸を入れて中和させると紅い色素だけが沈殿し、上澄みを捨てて乾燥させると純粋な紅が取れます。このように苦労して取り出せる紅の量は1㎏の花からたった3~5g。紅がいかに貴重なものだったかがわかります。

摘み取った花びらは用途に応じて加工されます。
・乱花
咲き始めの黄色い花びらを乾燥させたものが「乱花」。黄色い色素が食用などに多く使われます。
・紅もち
花びらを水洗いして発酵させ、臼などでついて紅色の色素を発色させてから丸くもちのように丸めて乾燥させたのが「紅もち」です。紅もちづくりは古来より行われた伝統的加工法で、紅もちにすることでより鮮やかに効率よく染めることができます。


■貴重な紅色
平安時代、「深紅」は「禁色(きんじき)」とされ、一部の高貴な人しか着てはいけない色でした。絹一疋(2反)を染めるのに約20斤(約12kg)の紅花が必要で、それは米13石分にも相当するぜいたく品だったからです。しかも紅花染めは一度では淡いピンク色にしか染まらず、紅に染めるには6~8回も染めを繰り返します。貴族の着る濃い韓紅(からくれない)の衣服は実に12回も染めを繰り返したそうです。
絹一疋を約1斤の紅花で染めた「一斤染(いっこんぞめ)」は「聴色(ゆるしのいろ)」とされ、女官や庶民も着ることができました。


■「最上紅花」と「最上千駄」
長い間、紅花の紅は貴族の間だけのものでしたが、江戸時代になると紅花の栽培が各地に広がっていきました。中でも、今の山形県の最上川流域は質の良い紅花が採れる一大産地として発展しました。「最上紅花」は最上川中流域の村山地方特産の紅花のことです。幕末の「諸国産物番付」では東の関脇として最上紅花の名が挙げられ、生産量も非常に多く「最上千駄」とも称されました。
ここで作られた紅花は「紅もち」に加工され、京都や大阪へと送られ、染めものや紅に使われました。高品質で知られる最上紅花は高価で取り引きされ、各地に「紅花大尽」が現れるほどでした。
現在では、加工用の最上紅花や、切花用のとげなし紅花・しろばな紅花などが栽培されており、山形の県花になっています。


■紅花油(サフラワーオイル)の利用

pixta_10771170_S紅花油.jpg

紅花の種から取れる紅花油(サフラワーオイル)は、食用油やインクやペンキの油として利用されてきました。日本では染色用の花として栽培されてきましたが、アメリカなどで栽培されている紅花は油料用のものです。世界的には油料用の栽培がほとんどです。
サフラワーオイルにはリノール酸が多く含まれますが、過剰摂取は良くないという研究もあり、オレイン酸が多く含まれるものなどが開発されています。

ページトップへ