一昔前までは、どこの家庭でも利用していた火鉢。炭火を起こし、暖をとるためにはもちろん、湯沸かしをしてお茶を淹れたり、火鉢を囲んでおしゃべりしたりと、生活の中に根付いていました。現代は電気やガス、灯油などの時代になりましたが、昔ながらの炭火の温もりも懐かしく、心安らぐものです。室内での炭火の扱いになれない人が多くなった今、火を熾さず、インテリアとして火鉢を活用する楽しみ方もあります。
■火鉢の歴史といま
奈良・平安時代頃から上流階級では炭が使われていました。熾した炭は、「炭櫃(すびつ)」や「火桶(ひおけ)」、今でいう火鉢の中に入れて使われており、その様子は枕草子にも記されています。炉に薪をくべるのと違い、煙も出ず、持ち運べ、部屋ごとに置くことができる火鉢は大変重宝なものでした。
江戸時代になると、徐々に庶民の間でも炭が使われるようになりました。その後、明治・大正と時代が移っても炭は重要な燃料であり、火鉢も広く活用されていました。
電気やガスが普及した今、炭の需要は減り、日常で火鉢を使う家庭は、ほとんどありませんが、火鉢の風情を好み、愛用される方もいます。
火鉢は、暖房としては、部屋全体を温めるほどのパワーはなく、近くによって暖をとるものですが、炭火の上に鉄瓶をかけてお湯を沸かしたり、網をのせて餅を焼いたりと、便利に使えます。ただ、一酸化炭素が発生しますので、こまめな換気が必要ですし、灰を使って火力を調整するのも慣れないと難しそうです。
■火鉢をインテリアで楽しむ
それでも、和室の雰囲気をグレードアップしてくれるインテリアとして火鉢は最適です。
火鉢と一口にいってもさまざまな種類があります。インテリアとして使いやすそうなものをご紹介します。
●長火鉢(木製)
木製の木箱の中に炉が収められていて、小物をしまえる引き出しがついていたりする便利な長火鉢。木目が美しく、風情があります。
関東と関西では形に違いがあります。関東長火鉢は別名江戸火鉢とも呼ばれ、シンプルな四角い箱型で小引き出しがいくつかついています。よく時代劇などにも登場していますね。昔、明治生まれの曾祖母が、長火鉢の横で、キセルをふかしていたのをおぼろげに覚えています。
関西長火鉢は、炉のまわりに台がついていて、カウンターテーブルのようになっています。居心地のよさそうな形で、やはり長火鉢のまわりに集まって、皆で食べたり飲んだりしたということです。これも小引き出しがついて機能的で美しい作りです。
長火鉢は、和室の雰囲気作りにそのまま置いておくだけでも様になります。関西長火鉢なら炉の部分に天板を置いてテーブルとして使っても素敵ですね。
●瀬戸火鉢(陶磁器)
陶磁器製の火鉢で、明治から昭和にかけて庶民向けにたくさん作られました。白地に青い絵柄の「染付」や、多色づかいが鮮やかな「十錦手(じっきんで)」など、色柄・形もさまざまです。部屋全体を温かくする大型のものから、「手あぶり」と呼ばれる一人用の小さなものまでサイズもいろいろあります。大型の瀬戸火鉢なら、重さもあるので強化ガラスを置いてテーブルにしても安定しています。大きさや形によっては、鉢カバーや傘立てなどにしてもいいですね。金魚鉢にしても風情があります。
手あぶりの火鉢は、昔は2個セットになっており、主人と客人とがそれぞれ使ったそうです。小さなものは、テーブルにのるサイズなのでワインクーラーとして活用するのもお洒落です。
火鉢は、もちろん今も製造されていますが、アンティークものも人気があります。火鉢は長い間、日本人の生活の中に根付いてきた生活の道具です。郷愁や愛着を感じる方も多いのでしょう。使い方次第で、火鉢はまだまだ活用できます。道具としての価値を大切にして、残していきたいものですね。
2018年06月04日