2018年06月03日

涼を呼ぶもの―風と水

真夏の太陽が照りつける暑い日も、風が吹いてくると少ししのぎやすい気がします。また、水辺の風景や噴水の水しぶきなどは、見るだけで涼しさを感じますね。
エアコンも扇風機もない時代、人々は高温多湿で蒸し暑い日本の夏を乗り切るために、自然の風や水を使って上手に涼を呼び込んでいました。

 


■すだれ・よしず
外の暑い熱を遮断して、部屋の中に上手に風を取り込んでくれるのが、すだれやよしずです。カーテンやブラインドは日除けにはなりますが、同時に風通しまで遮ってしまいがち。その点、すだれやよしずは日差しを遮りながら、風通しも抜群です。
すだれは、軒下に窓から少し離して吊り下げるのが効果的。よしずは、大型なので壁に立てかけるだけで風通しの良い、心地よい日陰ができます。

 

京都の町家では6月に入ると住まいのしつらえを夏仕様に変える習慣があり、すだれやよしずも活用されています。実用的でしかも風情も大切にする先達の知恵ですね。

 うちわ・蚊取り線香・すだれ.png

 


■風鈴
心地よい風が吹くと、チリンチリンと涼しげな音で、涼を誘ってくれるのが風鈴です。
その昔、中国で風鈴のルーツといわれる風鐸(ふうたく)を竹林に下げ、風の向きや音の鳴り方で吉凶を占った占風鐸(せんふうたく)が始まりといわれ、仏寺では東西南北に吊り下げたそうです。日本に伝わると、魔除け、厄祓いなどとして使われるようになりました。今でも風鈴には富士山や金魚など縁起の良い絵柄が描かれ、家の鬼門に吊り下げると厄祓いができると言われています。

風鈴は、ガラス製・金属製・陶器製などがありますが、ガラス製はチリンチリンと短い音色、金属製はチーンと長く響く音色など、それぞれに特徴があります。

 


■釣りしのぶ
釣りしのぶは、竹や針金を芯にして山苔を巻きつけ、その上にシノブの根茎を巻き付けて、さまざまな形に仕立てたもの。シノブは山地の樹木や岩肌に着生して育つシダで、強健で乾燥に強く、水がなくても「耐え忍ぶ」ことからこの名がつき、縁起良く「釣りしのぶ」と書くようになりました。風鈴をつけたものも多く、その涼やかな音色とともに夏の風物詩になっています。

「釣りしのぶ」は江戸時代に庭師が作り始め、お得意様へのお中元にしていました。昔ながらの「屋形船」「灯篭」「亀」「いかだ」などの形をしたものは、素朴で何ともいえないレトロな雰囲気が漂いますが、最近はモダンなデザインのものもあり、プレゼントにしても喜ばれそうです。

 釣りしのぶ・風鈴.png

 


■うちわ
イベントや街頭で配られることも多いうちわですが、起源は古く、中国から伝わり祭礼などに使われていました。風を送るだけでなく、陽の光を遮ったり、平安貴族の間では顔を隠したりする道具としても使われていました。
うちわには江戸うちわ、京うちわなどいくつも種類があります。

 うちわ.png

 

・江戸うちわ
江戸時代には紙漉きや竹細工が盛んになり、うちわもたくさん作られるようになりました。
江戸うちわの中でも、役者絵や美人画、風景画などを描いた「絵うちわ」は、粋な夏の装飾品です。
・京うちわ
うちわ面と把手が別に作られ、後から柄を差し込む構造になっているのが特徴で、うちわの骨の数が多いほど上級のものとされています。
優美な絵画が画かれ、宮廷でも用いられていました。今でも風を送る道具というより、飾って楽しむうちわとして人気です。

ちなみに「左うちわ」は利き手でない左で扇ぐことから、あくせく働く必要がないことを表す言葉です。

 


■たらい
いつでもシャワーが浴びれ、洗濯は洗濯機がやってくれる時代ですが、たらいは洗濯に、お風呂代わりに、また冷蔵庫代わりとしても役立つく暮らしの道具です。
たらいに水を張って浸かったり、水をかぶったり、濡らした手ぬぐいで体を拭いたりしてさっぱりとする「行水」は、江戸時代に始まり、明治・大正・昭和に入ってからも夏の風物詩でした。
また、井戸水や氷を使って、たらいでスイカや夏野菜を冷やすというのも夏の風情満点ですね。

 冷やしたトマト・スイカ・キュウリ.png

 


■打ち水
涼しい気がするだけでなく、実際に気温を下げるのが「打ち水」です。まいた水が蒸発するときに気化熱として熱が奪われ、温度を下げる効果があります。また、蒸発することにより、風が起き、涼しく感じることもあります。
昼間の炎天下にまくと、どんどん蒸発してかえって蒸し暑くなることがあるので、朝のうちか、夕方、日が陰ってきてからまくのが効果的です。
水は、風呂の残り湯などを再利用するとエコですね。
また、打ち水には「場を清める」という意味合いもあるため、来客への心遣いとして玄関先に打ち水する習慣もあります。

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