2023年07月11日

くちなし

くちなしはとても香りの良い初夏の花。その白い花から、うっとりするような甘い香りを漂わせることから、春の沈丁花、秋の金木犀と並んで、三大香木とされています。また、その実は漢方薬、染料、食品の着色料など様々に活用されています。


■人々が魅了されるくちなしの芳香
くちなしは、アカネ科クチナシ属の常緑低木で、昔から日本に自生し、親しまれてきた花木です。冬でも青々とした葉を保ち、6月から7月にかけて白い花を咲かせます。開花すると辺りに甘い香りを漂わせ、その香りは「ジャスミン」「ココナッツ」「柑橘類」などに例えられたりします。くちなしは東アジア原産ですが、19世紀にヨーロッパに伝わると、純白の花が放つ芳香が気に入られ、香水の原料や香りづけに利用されました。現在でもくちなしの香りは愛され、多くの香水に使われています。
くちなしは、夕方から咲き始める花は純白ですが、翌朝にはクリーム色がかった色に変化していき、一日で褐色になって落ちてしまう一日花。花びらは傷つきやすく短命なので、香りが良くても切花には向かないようです。花びらが6枚の一重咲きが基本種ですが、八重咲でバラの花のように華やかな品種もあります。

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■名前の由来はくちなしの実から
秋になると実をつけますが、この実は熟しても割れて開くことがありません。口が開かないことから「くちなし」という和名がついたといわれています。他には、実の上のガクの部分を「くち(くちばし)」、水分が多く種がたくさん詰まっている実の部分を「なし(梨)」に見立てて「くちなし」になったとする説もあります。
英名は「ガーデニア」、漢字では「梔子」「山梔子」と書きます。

■くちなしにまつわる花言葉と言い伝え
くちなしの花言葉は、「とても幸せです」「喜びを運ぶ」「洗練」「優雅」など。
アメリカでダンスパーティーに男性が女性を誘うときにくちなしの花を贈ったことから「とても幸せです」という花ことばができたとか。「喜びを運ぶ」は遠くからでも良い香りが届くことから。「洗練」「優雅」は白い花の姿からといわれます。
日本では「死人に口なし」のことわざの影響か、良いイメージばかりではないようです。娘のいる家では、「嫁に行く口なし」と言って庭木として敬遠されたともいいます。
また、将棋盤や碁盤の脚には凝ったデザインが施されていますが、これはくちなしの実をかたどったもの。勝負に対して部外者の助言など、口出し無用という意味だそうです。

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■用途がたくさん、くちなしの実
くちなしの実は漢方薬、染料、食品の着色料など様々に活用されます。
漢方では、くちなしの実を乾燥した「山梔子(さんしし)」が用いられています。中国最古の薬学書「神農本草経」にも収載されており、漢方処方に数多く配合されています。
また、乾燥させたくちなしの実は、布を染める黄色の染料として利用されてきました。濃いオレンジ色の実の色素はサフランと同じ「クロシン」という色素。水溶性で、くちなしの実を割って煮出すと、煮汁が明るい黄色に変化します。これを染料として利用しますが、布類だけでなく、安心して使える食品の天然着色料としても活用されています。
くちなしからは青い色素や赤い色素も工業的に作られます。オレンジ色の実からとれる黄・青・赤の色素、それらを混ぜることでもっとたくさんの色を出すことも可能だそう。くちなしには、白い花からは想像もつかないカラフルな世界が秘められています。

■くちなしを使った料理
くちなしの実の色素は香りや味がないので、料理の風味を損ねることなく、鮮やかな黄色に色付けすることができます。身近なところでは、たくあんや栗きんとんなどに利用されます。
郷土料理にもくちなしを使ったものが各地に伝承されています。
大分県臼杵市の「黄飯(おうはん)」は、くちなしの黄色に染まった水で米を炊き、白身魚や野菜、豆腐などを煮込んだ「かやく」が添えられます。江戸時代、質素倹約を奨励した臼杵藩の殿様が、赤飯に用いる小豆は手に入りにくい貴重なものだったため、代わりにくちなしで作って振る舞ったのが始まりだそう。また、一説では南蛮貿易が行われていたことからスペインのパエリアを模したのではないかともいわれます。その鮮やかな色から、正月などの祝いの席でも振る舞われます。
また、静岡県藤枝市には「瀬戸の染飯(そめいい)」ともいわれる郷土料理があります。蒸したもち米をくちなしの実で染めてすりつぶし、薄くのばした後、干して作られていた携帯食で、戦国時代からある東海道の名物でした。今は食べやすくおにぎりにアレンジされて復活しました。
愛知の「黄いないおこわ」は、黒豆ともち米をくちなしの煮汁とともに炊いたもの。黄色は邪気払い、豆は健康祈願を表し、端午の節句などに食べる習慣があります。

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