「山椒は小粒でピリリと辛い」。身体は小さくても、役に立ったり気がきいたり、優れていてあなどれないという例えに使われることわざです。そのことわざ通り、山椒は小粒ですが料理に少し加えるだけで味を引き立てるので、日本古来から親しまれ、ゆずと並び日本料理の2大香辛料のひとつとされています。時期によって、使われる部分や呼び名が変わるのも、日本の食に深く関わってきたことの証ともいえます。
原産は東アジア及び日本といわれ、北海道の北部を除く日本各地に広く自生しています。古くは「ハジカミ」と呼ばれており、「ハジ」は実が爆ぜること、「カミ」は「カミラ」(ニラの古名)のことで、味が似ていることからそう呼ばれたとか、辛くて顔をしかめるところからなど諸説があります。
中国から生姜が伝わり、現在は「ハジカミ」といえば生姜のことを指します。
山椒の木は庭木としてもよく見かけられます。ミカン科の落葉低木で高さは、1m~3mくらい。葉の根に一対のトゲがあります。春から初夏にかけて、黄緑色の小さな花が咲きますが、山椒には実のなる雌木と、花だけで実がならない雄木があります。秋になるとは雌木はミカンによく似た赤い小さな実をつけ、その皮が裂けると黒い種子が出てきます。小さな実を沢山つけることから「子孫繁栄」に繋がるともされていました。
朝鮮から伝わった「朝倉山椒」は、トゲがなくて実が大きく、香りも高く辛味があとまで残らないのが特徴。献上品や大名の御用にもなった高級品種で、現在栽培されている主な品種はこの「朝倉山椒」です。
山椒はどの部分にも芳香を持っており、あらゆる部分が利用されます。食用としては「木の芽」「葉山椒」「花山椒」「実山椒」「粉山椒」そして「辛皮」などがあり、ぞれぞれの部位によって旬が異なります。「木の芽」と「花山椒」の旬は4月~5月。「実山椒」の旬は6月。熟した実を粉にした「粉山椒」が出てくるのは11月頃です。産地としては和歌山、奈良、岐阜などが有名です。
また、山椒の木は成長がゆっくりなのでとても固く、すりこ木として最上とされています。するうちに、かすかな香りが立つのがよいようです。
木の芽
山椒の若葉のこと。春に芽吹いた「木の芽」は独特の香りとほろ苦さがあります。
・おすすめ料理
お吸い物に浮かべたり、あしらいとして料理に添えるほか、味噌とすり混ぜ豆腐に塗って焼く「田楽」にしたり、筍と合わせた「木の芽あえ」などがおすすめ。爽やかな香りと緑の色で春らしい一品になります。
花山椒
「花山椒」は山椒の雄花で、5月の短い期間ですが、若葉の後に淡い緑の小さな花芽が出ます。実のような辛味はありません。
・おすすめ料理
生のままの花山椒が手に入ったら、優しい香りと上品な味わいを楽しみましょう。吸い物に入れたり酢の物にしたり、佃煮にして酒の肴にしたり、佃煮をご飯にのせてお茶漬けにしてもおいしいです。
実山椒
「実山椒」は6月頃に出回る青い実のことで「青山椒」とも呼ばれます。実がなるのは雌木だけです。熟していない状態の緑色の実は香りも辛味も最も強く、下ゆでしてから水にさらし、辛味を除いてから佃煮などに使います。兵庫県の有馬地方が山椒の名産地であることから「実山椒」を使った料理を「有馬煮」ともいいます。
・おすすめ料理
しらすとともに佃煮にした「ちりめん山椒」が有名です。魚の煮物や肉料理に実山椒の佃煮を少し加えて味にアクセントをつけるのがおすすめ。
粉山椒
秋になると「割山椒」といって、山椒の実が熟して皮が2つに割れます。実は固くて食べられませんが、 皮に芳香があるのでこれをすりつぶして粉にしたのが「粉山椒」です。
・おすすめ料理
うなぎの蒲焼に、必ず付いてくるのが「粉山椒」。焼き魚や焼き鳥などの脂の多い料理をサッパリと食べさせてくれます。七味唐辛子にも使われている香辛料のひとつです。
辛皮(通称:からかわ)
山椒の木の若い樹皮です。表面の鬼皮をはぎ、内皮を水につけてアクを抜き、細かく刻んでしょうゆで煮たり、味噌漬けにしたりして食べます。お茶うけとして僧坊で用いられたものだそうですが、そのしびれる激辛のおいしさがクセになるとか。兵庫県の珍味。
山椒の辛味成分はサンショール。サンショールには局所麻酔の作用もあるので、青山椒を食べると舌がしびれます。
胃の調子を整えたり、回虫の駆除の作用もあるといわれ、また、山椒を刻んで布袋に詰めお風呂に入れるとより温まる効果があるそうです。
いろいろと役立つ山椒ですが、刺激が強いので食べ過ぎには注意しましょう。