2023年02月21日

蓬(よもぎ)

野山の草が青々としてくる早春に、蓬も新芽をつけ始めます。春の野原や土手などで蓬の若葉を摘み、草餅を作るのは春の風物詩。鮮やかな緑と独特な香りが春を感じさせます。蓬は食べるだけでなく、その良い香りで邪気を払うとされ、古くは医療用の薬草として扱われてきました。私たちの身近にある蓬の豆知識をご紹介します。

■蓬摘みと草餅、草団子
蓬はキク科ヨモギ属の多年草で、日本各地の野原や河川の土手などに自生しています。
蓬の名前の由来は、繁殖力が強いので「よく萌え茂った草」の意味での「善萌草(よもぎ)」、よく燃えることから「善燃草(よもぎ)」、四方に繁茂することから「四方草(よもぎ)」などの説があります。
蓬は3~5月頃になると新芽が成長します。蓬の若葉は草餅や草団子の材料として利用されてきました。草餅の材料となるので「餅草」とも呼ばれます。
いまも「蓬摘み」が春の恒例行事となっているところがたくさんあるでしょう。
草餅作りは、蓬の若葉を茹でてつぶして、餅に練りこみます。普通のお餅と同じように丸めてきな粉をかけたり、餡を包んで丸めたりした和菓子がよく売られていますね。また、焼いて焼き餅にしたり、ぜんざいやお汁粉にしたりして食べるものおいしいです。独特な少し青くさいような蓬の香りが春の息吹を感じさせます。
草餅だけでなく、天ぷらやおひたしにしてもおいしいそうです。

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■ひな祭りと蓬餅
春のお節句「ひな祭り」には「菱餅」がつきものですが、菱餅といえば緑、白、桃色と春らしい3色が重なっていますね。でも、はじめは緑色の餅だけでした。
もともとは古代中国で「上巳節」のときに食べていた母子草の餅がルーツで、母と子が健やかであるようにとの願いが込められていたそうです。母子草とは春の七草のひとつ御形(ゴギョウ)のことです。それが日本に伝わり、良い香りで邪気を払う力があるとされる、蓬を使った蓬餅になりました。ひな祭りに蓬餅(草餅)を食べるのはこの名残といわれます。
※詳しくはこちらもご覧ください。→【旬の味覚と行事食】ひな祭りの行事食

■花見と花見団子
桜の季節ともなるとお花見です。「花より団子」といいますが、お花見にはお団子がつきもの。花見のときに団子を食べるようになったのは江戸時代からといわれています。花見団子といえば赤(ピンク)、白、緑の3色団子。色の意味には諸説あり、その中の一つを紹介すると、赤(ピンク)は桜の春を、白は雪で冬を、緑は草木の色で夏を表しているとか。秋がないので「飽きない」と洒落をきかせた言葉遊びもあります。緑の蓬は生命力に溢れ邪気を払うとされ、ここにも用いられています。
春の息吹を感じる和菓子として、三色団子だけでなく、草団子も相応しいですね。
※緑の団子には抹茶を使う場合もあります。

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■端午の節句の邪気祓い
古代中国で始まった「端午」の行事は、病気や災厄を祓う大事な行事で、この時期に盛りを迎える香り高い菖蒲や蓬が邪気を祓うとされ、蓬で作った人形(ひとがた)を軒に飾ったり、菖蒲酒を飲んだり、菖蒲湯に浸かって邪気祓いをしていました。こうした風習が日本に伝わって「端午の節句」となり、菖蒲や蓬で厄除けをする風習が根付いていきました。
春の若葉と違い、成長した蓬は食用には向きませんが、様々な薬効があるとされています。蓬を煮だした蓬汁をお風呂に入れた蓬湯はからだに良いといわれていたり、生薬としても利用されたりしています。
※詳しくはこちらもご覧ください。→【暮らしを彩る年中行事】五節供/端午:菖蒲の節供

■蓬の別名「指燃草(さしもぐさ)」
蓬はお灸のときに使う「もぐさ」の原料でもあります。別名「指燃草」とも呼ばれます。鍼灸は仏教伝来とともに中国から伝わったといわれ、その後、日本の医療のひとつとして浸透してきました。
百人一首の中にもさりげなく登場しています。百人一首の51番、藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)の歌です。
「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを」
意味は「あなたを愛していることを言えないでいるので、あなたは知らないでしょう。伊吹のさしも草のように燃え上がる私の思いを」という恋愛の歌。伊吹のさしも草は、優れたもぐさとして有名で、火がつくと熱くなる「さしも草」と自分の熱い想いを重ねて詠んでいます。

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